アガサ・クリスティーの小説「アクロイド殺害事件」の感想です。
イギリスの田舎で起こったある名士の殺人事件。
事件を担当することになった名探偵エルキュール・ポワロの推理により、思いも寄らぬ真実に辿り着きます。
「前代未聞のトリック」と賛否を巻き起こした仕掛けを堪能できる傑作ミステリーです。
「アクロイド殺害事件」の基本情報
- 作者:アガサ・クリスティ(Agatha Christie)
- 訳者:大久保康雄(創元推理文庫版)
- 刊行:1926年にイギリスで刊行
- 日本では1955年に刊行
- 日本では2004年に創元推理文庫より刊行
- シリーズ:あり
- 名探偵エルキュール・ポワロシリーズ:3作目
- 注意点
- エログロ描写なし
「アクロイド殺害事件」のあらすじ
「アクロイド殺害事件」はイギリスが生んだミステリーの女王アガサ・クリスティーの小説です。
名探偵ポワロシリーズでは3作目に当たります。
原題は「THE MURDER OF ROGER ACKROYD」。
日本では他に「アクロイド殺し」や「アクロイド氏殺害事件」というタイトルでも知られています。
まずは、そんな「アクロイド殺害事件」のあらすじを掲載します。
クリスティ作品の中でも代表作とされる名作中の名作!
村の名士アクロイド氏が短刀で刺殺されるという事件がもちあがった。その前に、さる婦人が睡眠薬を飲みすぎて死んでいる。シェパード医師はこうした状況を正確な手記にまとめ、犯人は誰か、という謎を解決しようとする。60余編のクリスティ女史の作品の中でも代表作とされる名作中の名作。独創的なトリックは古今随一。
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田舎の村でお金持ちの未亡人・フェラーズ夫人が睡眠薬を大量にのみ自殺。
その直後、村の名士であるロジャー・アクロイド氏が何者かに背後から短剣で刺され殺害されてしまいます。
容疑者はみんな怪しく、一番怪しい人物は姿を消し、事実が分かるにつれどんどんこんがらがっていきます。
アクロイド氏を殺したのは誰なのか?
また、フェラーズ夫人の自殺との関係性は?
ミステリー史上トップクラスの衝撃とも言われるトリックに名探偵エルキュール・ポワロが挑みます。
クリスティ初期の作品
アガサ・クリスティーが小説家としてデビューしたのは1920年。
この「アクロイド殺害事件」の刊行は1926年です。
つまり「アクロイド殺害事件」はデビュー間もない頃に書かれた、クリスティー初期の作品だったりします。
このミステリーをデビュー6年目で書き上げるところにクリスティーの桁外れの才能を感じますね・・・。
ちなみに、クリスティーはこの「アクロイド殺害事件」で名が売れ、一躍有名作家になります。
「アクロイド殺害事件」のトリックに関する論争や、同じ年に失踪事件を起こしたため、一気に時の人になったのですね。
95年前に書かれた作品ですが、今なお「アクロイド殺害事件」の人気は高く、2012年に週刊文春が行った東西ミステリーベスト100では第5位にランクイン。
クリスティ作品の中でも特に人気が高く、1982年の日本クリスティ・ファンクラブ員の作者ベストテンでは第2位を獲得しています。
※ちなみに1位は「そして誰もいなくなった」です。
長編だけでも33編があるポワロシリーズでも初期(3作目)に書かれた作品とは思えないほど、完成度が高い作品でした。
【ネタバレなし】「アクロイド殺害事件」の感想
「アクロイド殺害事件」のネタバレなし感想です。
わたしが「アクロイド殺害事件」を読んだ理由
まずはじめに、わたしが「アクロイド殺害事件」を読んだ理由を書いてみようと思います。
最近、アガサ・クリスティーの小説にはまっているわたしは、特に『名探偵ポワロ』シリーズを愛読しています。
そんな『名探偵ポワロ』シリーズの文庫を読んでいると、訳者あとがきで必ずこの「アクロイド殺害事件」への言及がありました。
あとがきには、
- 賛否両論のラスト
- 物議を醸し続ける衝撃の結末
- 大胆不敵なトリック
- 最大の問題作
など、言葉は違えど、とにかく結末が衝撃的とのこと。
これが1冊ではなく、アガサ・クリスティーの小説すべてで言及されているのです。
アガサ・クリスティーの著作は数多くありますが、これほどまでに話題にされているのはこの「アクロイド殺害事件」や「オリエント急行殺人事件」、「そして誰もいなくなった」くらいです。
「オリエント急行殺人事件」や「そして誰もいなくなった」はミステリーに詳しくない人でも知っている有名作。
それに比べ「アクロイド殺害事件」は知名度では劣ります。
にもかかわらず、多くの訳者が言及するのは相当な傑作なのだろうと思い手に取りました。
そして、読みました。
たしかに『衝撃の結末』でした。
わたしは、後半に差し掛かり、だんだんとある人物が犯人かもしれないと思っていましたが、そのまさかでした。
読みながら犯人を当ててしまった反面、事件の全貌が浮かび上がるにつれ、その圧倒的な終結に感動しました。
ここまで「アクロイド殺害事件」のネタバレなし感想でした。
【注意・ネタバレあり】「アクロイド殺害事件」感想
ここからはネタバレ有りで「アクロイド殺害事件」の感想を書いていきます。
がっつり犯人について言及しているので、未読の方はご注意ください。
「アクロイド殺害事件」は、アガサ・クリスティーが生み出した名探偵エルキュール・ポワロシリーズの3作目となります。
「灰色の脳細胞を働かせる」が決め台詞のポワロが依頼されたのは、イギリスの田舎で起きた名士・アクロイド氏の殺害事件の真実を解き明かすこと。
ポワロは隣人で他殺体で発見されたアクロイド氏の第一発見者でもシェパード医師とともに事件の謎に挑みます。
「アクロイド殺害事件」ではこのシェパード医師が語りを務め、シェパード医師の視点で物語は進んでいきます。
「アクロイド殺害事件」の流れ
まずはアクロイド氏が殺されるまでの流れをおさらいします。
- 舞台はキングズ・アボットというイギリスの村
- 物語は裕福な未亡人・フェラーズ夫人が睡眠薬の飲み過ぎで自殺するところから始まる
- そのすぐ後、シェパード医師が村の名士であるロジャー・アクロイド氏から晩餐会に招待される
- 晩餐会の後、アクロイド氏はシェパード医師にフェラーズ夫人が脅迫された末に命を絶ったと告げる
- フェラーズ夫人は1年前に亡くなった夫を毒殺したことで脅迫されていた
- ちょうどその時、執事が生前にフェラーズ夫人が脅迫者の名前を記した手紙を持ってくる
- アクロイド氏は「1人で読む」と言い張り、シェパード医師を帰す
- その晩、アクロイド氏が死亡しているとの電話を受け屋敷を再び訪ねると、刺殺されたアクロイド氏が発見される
そうして、アクロイド氏の姪フロラ・アクロイドから直々の指名を受け、ポワロはこの「アクロイド殺害事件」に着手することになるのです。
『犯人は誰?』に特化したミステリー
「アクロイド殺害事件」は犯人捜しに特化しているミステリーです。
殺害方法は短剣で背中から一刺しとシンプル。
別に凝った殺し方はしていません。
そのため、誰がいつどうして殺したのかが「アクロイド殺害事件」の肝となっています。
「アクロイド殺害事件」主な登場人物
ここで「アクロイド殺害事件」の登場人物をまとめておきます。
「アクロイド殺害事件」登場人物
- ロジャー・アクロイド:事件の被害者で、村の名士
- フェラーズ夫人:アクロイド氏殺害の数日前に自殺している
- ラルフ・ペイトン:アクロイド氏の息子。しかし、血はつながっていない
- フロラ・アクロイド:アクロイド氏の姪。ラルフの婚約者でもある
- セシル・アクロイド夫人:フロラの母親で、アクロイド氏の弟の妻
- パーカー:アクロイド家の執事
- レイモンド:アクロイド氏の秘書
- ミス・ラッセル:アクロイド家の家政婦
- アーシュラ・ボーン:アクロイド家の小間使い
- ブラント少佐:アクロイド氏の友人
- ジェームズ・シェパード:医師。この「アクロイド殺害事件」の語り手
- カロライン:シェパードの姉。
- エルキュール・ポワロ:主人公にして、名探偵
アクロイド氏が殺害された夜の晩餐会には、リストの字下げされた人物が出席していました。
一番怪しい義理の息子・ラルフ
晩餐会には出席していませんでしたが、アクロイド氏の義子であるラルフ・ペイトンは事件後、行方不明に。
道楽者で金に困り、たびたびアクロイド氏に金の無心をしていたことから容疑者の筆頭にあげられてしまいます。
事件を調べていくと、ラルフに不利な証言ばかり出てきます。
けれども、ポワロは当初からラルフが容疑者ではないと踏んでいました。
また、読んでいても「怪しいけどラルフは犯人ではないのだろうな~」と思えます。
犯人ではないというか、ラルフは終盤まで一向に出てこないので、逆に犯人だったら読者に対する裏切りです。
一番怪しい「ラルフは犯人ではない」ということを念頭に、ポワロは犯人捜しを続けます。
みんな何かを隠している容疑者たち
物語の中盤、ポワロは容疑者を一堂に集め「隠していることを話せ」と詰め寄ります。
その圧力に負け、徐々に本当のことを語り始める容疑者たち。
セシル・アクロイド夫人は多額の借金があることを。
フロラ・アクロイドは事件の当日に、アクロイド氏の寝室からお金を盗んだことを。
執事のパーカーは脅迫癖があることを。
ブラント少佐はフロラ・アクロイドを密かに愛していたことを。
そして、事件前後に屋敷周辺をうろついていた不審な男。
その麻薬中毒の男がミス・ラッセルの一人息子で、事件当日に金を無心され渡していたこと。
さらに、アーシュラ・ボーンがラルフと密かに結婚し、事件当日にラルフと密会していたこと。
各人がそれぞれの秘密を打ち明け、それに伴い容疑者から外れていきます。
この時点で、ポワロに秘密を話していない人物は一人しか残っていませんでした。
事件の終盤と犯人の最期
事件の見通しが立ったポワロは、最後に自宅に容疑者たちを呼び寄せ「明日になったら警察に犯人を打ち明ける」と告げ、シェパード医師以外の容疑者を帰します。
そして、シェパード医師と2人きりになったポワロは事件の全容を話し始めます。
事件当日にアクロイド氏と書斎で2人きりになり、事件後の始末を付けられた唯一の人物はシェパード医師しかいない。
そう語り、シェパード医師が犯人と言い当てます。
夫を毒殺したフェラーズ夫人を脅迫し、自殺に追い込んだ人物。
さらに、脅迫の事実が発覚するのをおそれ、アクロイド氏を殺害した人物。
それはシェパード医師だったのです。
この「アクロイド殺害事件」の大胆不敵なトリックとは、ずっと真犯人による語りで物語が進んでいたということだったのですね。
犯人と言い当てられたシェパード医師が睡眠薬を飲み命を絶とうとするところでこの「アクロイド殺害事件」は終幕を迎えます。
※余談ですが、秘書のレイモンドは事件に何も絡んでなく、隠し事もないという潔白な人物でした。
「アクロイド殺害事件」フェア・アンフェア論争とは
「アクロイド殺害事件」は実は犯人だったシェパード医師の手記という形式でストーリーが進みます。
そのため、事件の真相といった『犯人が殺人を行うシーン』は意図的に書かれていません。
それにより、この「アクロイド殺害事件」は『フェアではない』との批判が付いて回りました。
ミステリー小説は、本来、読者に謎解きを楽しんでもらうため、作者が出せるカードをすべて提示するのが普通です。
謎解きが不可能なように大切な要素を隠してはいけない、というのが作者に課せられた最低限のルールだと思います。
けれども「アクロイド殺害事件」では、事件の重要な部分が故意に隠されている。
これはアンフェアなのでは?という意見が出たのですね。
その一方、その気になれば台詞や犯行時刻の齟齬から十分に犯人がシェパード医師だとも推理できるのも事実。
また、シェパード医師の語りはあくまでポワロの捜査をありのままに記す、という形式なので、ポワロが知り得ない犯行の様子が書かれていないのは当然とも言えます。
よって「フェアである」という意見も多々ありました。
この論争は世界中、当然日本でも起きていますが現在では「フェアである」という意見が大半のようです。
わたしもミステリーとしてとても面白かったですし、小説に提示された情報のみで犯人の目星が付いていたのでフェア説を支持します。
目星は付いていたものの、本当にシェパード医師が犯人だと知ったときはビックリしました・・・。
姉のカロラインといい、シェパード医師はなかなか魅力的な人物だったのでこの1回きりしか登場できないのがもったいない気もします。
そんな贅沢な人物使いも特徴と言えるのが「アクロイド殺害事件」でした。

